花渡川アートプロジェクト

Moving Water Days
水山車が花渡川を渡る日

鹿児島県南さつま市津貫/枕崎市
2006年10月27日〜29日

世界的に進行する深刻な水不足の問題に対して、花渡川から、「水を背負って、運ぶ」、Moving Waterの3日間。
●10/27(金)Act.1 <水背負い子づくり
●10/28(土)Act.2 <<ミリットルの水箱リレ
●10/29(日)Act.3 <水山車渡り>・<水輪
漁船からの陸揚げで賑わう、鹿児島県枕崎港。花渡川の河口
花渡川ノート Note on Kedogawa Art Project

万之瀬川アートプロジェクトから、7年
          
鹿児島県薩摩半島を横切るようにして、東シナ海に注ぐ、万之瀬川。その万之瀬川を舞台にして、1997年に、野外アートプロジェクトが始まった。3年目の1999年には、流域の1市3町が参加して、それぞれにユニークな水駅を設置する「水駅伝プロジェクト」へと展開した。各地域の人たちとの共同作業が実現し、河原に、元河川敷に、収穫の終わった田んぼに、巨大なアート「水駅」が出現した。私は、「速効性を望むイベントと違って、本来のアートはじわじわと効いてくる漢方薬のようなものだ」と、よく口にする。実際、この「水駅伝プロジェクト」は、2005年秋、米国ピッツバーグのカーネギーメロン大学で開催された「GROUNDWORKS」展で、記録展示され、その規模や発想などに、「Amazing!」と称賛された。そして、2006年9月に、イタリア・ミラノで出版された書籍「Natural Architecture 自然の建築物」では、12ページの特集で取り上げられた。そして、現地でも、再び、アートプロジェクトに取り組みたい、という動きが起こったのである。

NPOエコ・リンク・アソシエーションを主宰する下津公一郎さんから連絡があったのは、2005年12月であった。万之瀬川アートプロジェクトのプロデューサーとして主導力を発揮した彼が、エコ関係や地域の活性化の活動が落ち着いてきたので、7年ぶりにアートプロジェクトに取り組みたい、という提案である。今度は、万之瀬川よりもっと南方で、九州最南端の枕崎市を流れる花渡川という川でのアートプロジェクトを、という話である。花、渡る、ときれいな文字並びだが、ケドガワと読む。アートにも循環があるのか、と、うまい具合のめぐり合わせを感じて、計画に取り掛かった。

川と人とを、結び合わせる

川でのプロジェクトを行う場合に、モットーとしていることがある。「答えは、向こうからやってくる」というものだ。川とじっくり見て回る、そのうち川のもつ独自な語り掛けが聞こえてくる筈だ。地球上に、人間の手が加わってない川はひとつもない、と言われるくらい、川と人とは深いかかわりをもつ。その関係を見てとるために、何度も川に足を運ぶ必要がある。2006年5月に、初めて花渡川と対面した。南さつま市(元加世田市)の津貫に源流をもち、枕崎市を流れて、東シナ海に入る、全長約13kmの川である。

下津さんの案内で何度か見て回ると、上流、中流、下流で、大きく川の様子が変わることに気づく。上流は、凝灰岩が剥き出しで、その間を縫って、水が流れ、小さな滝となって落ちる、自然の景観が心地よい。子供たちが、網をもって、古い石橋をくぐり抜け、ダンマ(川エビ)取りに、川を渡っていった。
中流域は、河川改修工事のまっただ中で、土砂で濁った川の水で、上流との違いに驚く。床上浸水の防止を目的に、川筋を変え、川幅を拡張するために、橋の付け替え、仮橋工事と、川はいじくられるままといった印象が強い。「この橋など、架けてから、まだ何年かしか経っていない」と、ぼやく声も聞こえる。
河口は、東シナ海に向かって、大きく開かれている。枕崎港があり、カツオが有名で、カツオぶしを作る工場が数多く目立つ。カツオを燻す薪がうずたかく積んであるので、直ぐわかる。しかし、岸壁が高くて、川に下りられる場所が1箇所しかない。結局、「川と人のかかわり」を考え、創造的な時間を共有しえるのは、凝灰岩剥き出しの上流と、1ケ所降り口がある河口だろう。

川の姿が見えてくると、次は地元の人との対話だ。花渡川人の会の人と、話をした。イカ柴づくりの話は、興味深い。漁業関係者が、上流の山で芝刈りをして、それを束ねて海に投げ入れる。イカの産卵場所をつくるためである。このような例を挙げて、山・川・海を繋ぐ祭りを作りたいなどと、花渡川人の会の人は語ってくれた。私自身は、アートと祭りを結びつけるイベント傾向が最近は多いが、私はそのアート盆踊り的な賑わい志向が好きでない。もし祭りと呼ぶなら、祭りというハレの時間から外へと発信するものを作りたい。祭りが祭りを生む、毎年進化していくものもいい。私は、以前から、水を積み込み運ぶ「水山車」を作りたいと思っていたことと、ここで結びついた。「水山車が花渡川を渡る日」、Moving Water Daysだ。何処へと向かうか、それを一緒に考えたい。

水箱背負って川上り 水山車担いで川下り

神社の駐車場になっている空き地で、黙々と「水背負い子」を作る高橋素晴さんに会った。竹でドームを作ったり、竹を使った工作物ならまかせておけ、といった、26歳の青年だ。私も、水上文明を象徴する伸長材としての竹に興味をもち、アジア各地で竹を使ったインスタレーションを展開してきた。「これからも、一緒に組んでいける」と、お互いに合点して、話が弾んだ。
7年前に万之瀬川で一緒に作業した仲間と呼べばいいのか、建築家の源川さんや有馬さんが、「80リットルの水箱」の製作に取り掛かってくれている。
もっとも遠い川辺町から、児玉龍郎さんが駆けつけてくれた。児玉さんとは、万之瀬川の出会い以来、ずっと写真撮影やデザイン作業を頼む仲である。たまたま川口に来ることになった児玉さんと、川口での水主撮影を成功させたのは、約1ヶ月前である。彼等と作業していると、「これぞ、最強のコンビ!」と言いたくなる。

「水箱背負って川上り 水山車担いで川下り」、チラシに書いたキャッチフレーズだ。「80リットルの水箱」をのせた「水背負い子」を背負って、川を渡る。それぞれの水箱の蓋の部分には、水の循環を表わす意味で、「天」「雨」「森」「湖」「川」などと、書いてある。おっ、「天の水箱」を運ぶ人、「森の水箱」を運ぶ人、といった具合である。
平たい岩場がある地点に着くと、「水背負い子」は「水山車」に変身する。水背負い子を逆さまに立てて、横に長い竹を渡して、「水山車」の脚とするのだ。今度は、「水山車」を数人で担いで、川を渡る。個人での水運び、そして、個人が結集して、共同での水運び。鹿児島市内から、ボランティアが、連日参加してくれた。28日は、女性も交えて、若者たち。29日は、中高年主体。想定外のアクションに最初はとまどいもあったが、次第に「水背負い人 Water Backpacker」といった新種のプロが誕生した。最後に、河口で、2基の水山車を、車輪のように円環状に合体させて、完了。堤防の上から覗くと、水の循環を表わす「水環 Water Wheel」であることが見て取れる。「貴重な体験をありがとうございました」と言って。ボランティアの人たちは帰って行った。

その時の写真を使って、年賀メールを作成し、海外のアーティストやディレクターに送った。児玉さんが腰まで水に浸かって撮影した写真は、臨場感がある。イスラエルのエコ・アーティストであるシャイ・ザカイから、彼女が企画している「Disturbance 騒乱」という展覧会に相応しい写真だと返信があった。戦争によって破壊された自然、自然のエコ・システムの撹乱。戦火の中からのメッセージだ。私は、彼女の要請に応えて、「Disturbance」に参加しようと思う。アートは、その場で完結するお祭り騒ぎではない。アートの強力な発信力に、改めて勇気づけられる。

Act.1 水背負い子づり 
Backpacking Water
水背負い子は、80リットルの水箱の重量を計算して、花渡川沿いの竹林から切り出した竹を細工して、入念に製作。背中に当たる部分は、わらを巻いて、クッションに。
80リットルの水箱の上面には、水の循環を表わす「森」「山」などの文字を。

・水背負い子製作/高橋素晴
・水箱製作/源川孝男、有馬

80リットルの水箱を背負ッて、川を歩く、池田一
● 花渡川上流 ・・
Act.2
80リットルの水箱リレー
Water Box relay
凝灰岩が露出した岩場の間を水が流れる、上流から、出発
鹿児島市内から参加したボランティアの人たちと、80リットルの水箱を背負って、川を歩く。上流は水は多くないのだが、岩に生えた苔がぬるぬるして、滑りやすく、歩きづらい。女性3名を交えた、若い「水背負い人たち」が、地下足袋を着用して、果敢に挑戦。次第に、もともと「水背負い人」だったのではないか、と思わせるぐらい、水運びが板についてきた。
上流
Act.3 「水背負い子」から、「水山車」
Collaborative Carriers
上流の岩場が平らな場所に着くと、水箱の重さを考え、みんなで担ぐ「水山車」に組み換える。水背負い子を逆さまに立て、脚とし、長い竹を渡せば、容易に「水山車」の出来上がりだ。
そして、「水山車」を解体すれば、直ぐに「水背負い子」として、使えるというわけである。
花渡川河口
  
Act.3 水山車渡り・山車の合体・水輪
Water Wheel
花渡川の河口にある、唯一の川への降り口。その階段に並ぶ、80リットルの水箱たち
河口の先に広がる海は、東シナ海。干潮時を待って、川に降り立ち、水山車を担ぐ。2006年10月29日
Moving Water Daysの最後に、2つの「水山車」を合体させて、「80リットルの水箱」が結集した「水基地」を造る。堤防から川面を見下ろすと、天→雨→森→湖→川→などと、水の循環を表わす「水輪」が浮かんでいるように見える。

戻る