Water Box of Art & Environment
池田一・水箱アートミュージアム 2008
川口市立ギャラリー・アトリア、川口、埼玉
2008 1/16(水)〜1/27(日)


ますます深刻な地球環境問題に、
未来のアートは向き合いたい。
「水箱アートミュージアム」では
‘水’を媒介にして、
アートの想像力と現実の環境が出会う。
そして、間のギャップが溶け出し、
それぞれの一歩先が、水箱から
ふつふつと湧出してくる。

「水箱アートミュージアム」は、
訪れるすべての人が未来の環境の創り手として、
自在にムーヴする共創空間。
この新しい「環境&アート」の
ミュージアム構想から、
都市の閉鎖河川・旧芝川の再生に向かう。
川口市内には、ヘドロ臭が漂い、半ばドブ川化した旧芝川5.8kmが流れている。閉鎖された都市河川という、もっとも身近な環境問題を、ひとりひとりはどのようにとらえ、活動するのか? 今回の<水箱アートミュージアム>展は、旧芝川を市民共有のフィールドとして把握し、「環境&アート」の発信基地となることを願う。
そのためには、単なる美術作品展示ではなく、「環境&アートのミュージアム」のあり方を共に構想する展覧会にしたい。
お年寄りからは、川口、芝川への連綿たる想いを紡ぎ出す。子どもたちには、水の大切さを通じて、未来のあるべき姿を語り続ける。川口市民だけでなく、水の大事さを思うすべての人が、「環境&アートのミュージアム」の担い手として期待される。
Note by Ichi Ikeda

環境をアートでおおう

 「旧芝川5.8kmを、環境アートミュージアムに変えてみたい」と語ると、どのような美術館を川のどこに建てるのか、という話に決まってなる。構造物の建造となると、金銭の問題、制度の問題等に話が及んで、がんじがらめになる。自由なアートの目線から、離れていく。じゃあ、仮想美術館のようなものか、と尋ねる向きもある。
 
 そこで、旧芝川とは何か、と話すことになる。旧芝川5.8kmは、二つの水門で閉じられた閉鎖河川である。その閉鎖河川に、17の橋が架かっている。殆ど水の流れがないので、橋と橋の間は、蓋が外れた水箱のようなものだ。そこで、「旧芝川は17の水箱が連なったもの」ととらえると、俄然川全体の様相が見えてくる。これぞ、私がいうアートの着想だ。17の水箱、これは仮想ではない、アートがとらえた現実なのだ。
 
 このアートの着想に、テレビ朝日の「素敵な宇宙船地球号」という番組が、くいつてきた。実際に、鉄板で囲った水箱を建てて、ヘドロを撤去していく。その水箱作業を上流から順次やっていくと、水はきれいになる、という筋書きだ。実現はしなかったが、「旧芝川=17の水箱」という着想は、具体的なアイデアを生む基盤となったのは、事実だ。
 
 川口市立アートギャラリー・アトリアでの展覧会の話があった時、17の水箱との連動を即座に考えた。実際に会場を訪れると、展示空間という決められた制度の中の空間という枠組みが気に入らない。そんな時、決まって、18歳の時に訪れた平泉の金色堂のことを思い出す。外観はなんでもない御堂の中に、肝心要の金色堂がある。さや堂の中に、本体がある。これだ、既存のアートギャラリーをさや堂にして、中に自分のミュージアムを作り上げればいいだけだ。「水箱アートミュージアム」という、環境&アートのミュージアム構想が、そこから展開していった。ミュージアムと人が関わる全機能を考えていく。図書閲覧コーナー、視聴覚コーナー、ゲストとのコラボレーションコーナー、参加コーナー、ワークショップなど、さや堂をアートで覆い尽くしていく。旧芝川という水箱に詰め込まれた人間の関わりの可能性が、アトリアで見て、体験出来る。ここは、旧芝川のひとつの水箱なのである。
  
 環境をアートでおおう。焦ることはないが、水箱アートミュージアムがさや堂を出て、旧芝川の水箱を次のさや堂として滞留する日が来ればいい。
                  
「環境&アートのミュージアム」を構想する場合に、二つの視点が必要である。
1) 自分の足下の、具体的には旧芝川の問題を見る、ミクロな視点
2) 地球上の全ての水は循環しているという、マクロな視点
この二つの視点を基準として、「環境&アートのミュージアム」に必要な要素、展示空間/コーナー/イベントなどによって、構成される。
インスタレーション(1)
Moving Water Days
80リっトルの水箱を載せた背負い子が、宙に浮かんでいる。その下には、地面から突き出たような「土で覆われた長靴。まさに動きださんとするような長靴からは、誰もが連想するだろう。水箱の運搬を、途中で投げ出した者は、誰だろう?代わりに、次に担ぐのは誰だろう?
長靴の足元に広がるものは?近づくと、旧芝川に沈む汚染物や浮遊物ばかりで造られた「芝川タイル」が敷き詰められていることがわかる。旧芝川から、きれいな水を運び出す日は、いつのことだろう?

1997年から、カメラマン児玉龍郎と、アジア各地で、水主の撮影を続けてきた。「未来への水の送り手=水主」に登録するためには、「水面から出た瞬間の、顔」「水を組む手」「水の中に立つ足」の、3点の写真が必要条件となる。未来への水の保存への、強い意志の表現だ。現在、ジョグジャカルタ、ジャカルタ、バンコク、マニラ、香港、沖縄、鹿児島、相模湖、川口での撮影を終え、水主の登録は300人を超えた。四方の壁を埋め尽くす水主たちは、問うだろう。「次は、君の番だ」と。
インスタレーション(2)
アジアの水主たち

インスタレーション(3)
6つの水箱
「あなたが、一日に使う水の量をどれぐらいか?」。それを直ちに認識出来るように、一人一日に使用する水の量を呈示した、6つの水箱を展示した。5リットルから、1,000リットルまで、実に200倍の格差があることが一目瞭然だ。富の格差ではない、基本的人権における格差である。
ある程度の生活水準を維持するには、1日80リットルの水が必要である。
炊事、飲み水、洗濯、洗顔、風呂、等々。80リットルは、生存のための基本的権利である
5リットルの水箱
ケニアの田舎では、
1日たった5リットル
の水で生活せざるをえ
ない人たちがいる。
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80リットルの水箱
50リットルの水箱
しかし、世界人口のほぼ4分の3人たちは、1日に50リットル、それ以下の水を確保するのがせいぜいである。
1,000リットルの水箱
アメリカ人の中には、一日に水を平均して、
1,000リットル使用する人がいる。
芝への散水と洗車のために使用、との報告。


324リットルの水箱
日本人一人当たりの、一日の水の消費量は、
平均324リットルである。



参加コーナー
旧芝川ウオーターマップづくり
川の水は流れゆくものなので、水に関する刻々の情報は収集が困難だ。しかし、旧芝川は殆ど流れがない分、水の情報は集めやすく、活用しやすい。通常よくあるグリーンマップではない、例のない「ウオーターマップづくり」が始まった。
旧芝川ウオーターマップづくりに、情報を!
1)水自体に関する情報(排水口などからの流入/流出する水の情報、水質に関する情報、スカムなどの汚染状況など)
2)旧芝川周辺の、動植物の生態系に関する情報(魚類、鳥類などに関する情報、植物の外来種に関する情報など)
3)芝川にまつわる、歴史的な情報(歴史的なスポット、舟運や川辺の産業にまつわる情報など)
旧芝川5.8kmを、17の水箱に分解し、それぞれの水箱を連ねて、旧芝川を再構成。旧芝川を、市民の日常生活の目線でとらえるようにするための、独自なウオーターマップづくりが始まった。

図書コーナー
特集/芝川本
旧芝川をテーマにした、いわゆる「芝川本」を、蛇腹本として展示した。手に取って、見るもよし。蛇腹本なので、開いて、壁掛けにして、眺めるのもよし。図書コーナーの、斬新な取り組みに、興味が集まった。
5冊の芝川本:

1)WATER TRUST
環境居住権に関わる本
2)Eco-ship Drive
芝川再生のための、フラッグとステッカー。
3) 水たちよ! not water, but water
汚染された水たちに語りかける本
4) 芝川ベッド Shibakawa River Bed
旧芝川の汚染物や沈殿物の写真が敷き詰められたベッドが、寝るのは誰か?と問う。
5)Blue Card
排水口の調査から生まれた本

ポスター展
池田一の水アートワールド
このコーナーは、ゲストとの共働作業による展示空間だ。今回は、1997年から、国内外の池田一のアートプロジェクトを撮り続けてきた、カメラマン・児玉龍郎氏との共働作業である。グラフィック・デザイナーでもある彼とは、今まで撮った写真を選抜し、新たにポスターを作成することにした。8点のポスターを蛇腹風に並べた、ポスター展「池田一の水アートワールド」。

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